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2010年3月21日 (日)

やわらかい約束。

これまで、たくさんの作家の本を読んで来ましたが、いつも、私はその作品を書く著者のことが、その方の生きざまが、知りたくなります。20代の頃に愛読したこの作家のことについても、然り。そのひとの名は、吉行淳之介。たまたま、その作家のタイトルを流儀のごとく現した松村友視氏の著書『淳之介流』を図書館で手にして、その副題に、とても興味を覚えました。“やわらかい約束”とは、いったいどんな約束なのでしょうか…ねぇ。しかも、この表紙カバーにある、【折れたタバコの吸殻】にも、意味があること。興味もたれた方は、この本のあとがきをお読みください。

淳之介流―やわらかい約束

買ったきっかけ:
図書館で借りました。

感想:
文壇で数々の賞を取り、活躍したことだけでなく、吉行淳之介のダンディズムについて、彼の周知の人々との関連を交え、やさしいタッチでその魅力を語る、普段着の淳之介流儀が、そこはかとなく香る文面が素敵です。

おすすめポイント:
いかにも、いま、そこに、吉行淳之介が居て、そういったような、はにかんだ顔までが見え隠れする。そんな著者・村松氏自身も吉行淳之介に魅了されている一人なのだという所も読みどころです。

淳之介流―やわらかい約束

著者:村松 友視

淳之介流―やわらかい約束

その前に、吉行淳之介のことを、若い読者は、どれだけ、ご存知なのでしょうか?と、言うのも、この作家の家族が全て、ふつうの人たちではないのです。それぞれが、見事に自立していて、しかも、皆、文学や芸術や、手に職のある家族。それでいて、どの子も病弱な運命と、時代の先駆者ともいうべき、シンボルとなる人材の一家です。吉行淳之介の父は、ダダイズムの詩人で作家であった、吉行エイスケ。母は、美容師としてあのNHKテレビ小説の主人公のモデルにもなった、あぐりさん。長男が、作家・吉行淳之介。すぐ下の妹が、女優・吉行和子。その妹が、詩人・吉行理恵。惜しくも、末妹の理恵さんも、今は既に亡き人となり、この一家で現存しておられるのは、母・あぐりさんと、妹の和子さんだけ。

一人の作家を好きになることは、あっても、この一家のように、全てが感性の光るそれぞれの魅力の珠を持っていて、私がこの家族まるごと、魅了されているのも、不思議な気がしています。それは、もちろん、エイスケ氏とあぐりさんの夫婦の遺伝子に成せる技なのかもしれませんが、それよりも遥か昔から、延々と継がれて来たご先祖さまの遺伝子も、受け継いでいるとしたら、この一家の叡智を受け継ぐのは、残念ながら、今は一人。和子さんは独身だし、淳之介さんの娘さんだけというのも淋しい気がします。

前置きが、長くなりましたが、この“やわらかい約束”について、少し、触れておきます。吉行淳之介の作品については、また、折々に、このブログで綴って行こうと思っています。私が20代のときに購入して愛読した本が2冊手元にあります。当時、“夕暮れ族”というブームを巻き起こした、『夕暮れまで』と、西鶴の名作を吉行淳之介訳で発行した『好色一代男』の2冊です。表装までもが、渋く、艶っぽいとだけ、予告しておきますね。

では、本題の“やわらかい約束”は、この著者と淳之介氏が実際に交わした会話の返事から出てきた言葉らしいのです。作家になる前に、村松氏は、編集社に勤める社員でした。編集者であった村松氏が、作家・野坂昭如と吉行淳之介の対談を企画し、依頼したが、う~んと唸ってから、「じゃあ、その対談のはなし、やわらかい約束にしておこうか」と、言った。「やわらかい約束とは何ですか?」と問うと、「固い約束ではないということ」、という言葉が返ってきた。と本にはあった。ここで、著者の村松氏は、淳之介流というべき、流儀に出会ったと記していました。しかし、はぐらかされたようで、固い約束でないなら、やわらかい約束とは、守らなくてもいいというニュアンスのものではないかと疑問が湧いたらしい。それで、つい、「やわらかい約束ですか…」とオウム返しで呟いたら、淳之介氏が、いたずらっぽく笑っていたらしいが、この“やわらかい約束”こそが、彼の本質の芯と深く関わっていたのだと、後で感じる出来事に会うと言う。

村松氏の解釈によれば、この約束の相手は、きっと、最初は女性が相手のときによく使ったのではないかという。女性遍歴というか、恋多かった作家でもあったし、頷けるような節もあるなと、私も感じた。それが、その依頼から2年の歳月が流れて、忘れていた頃に、淳之介氏から、「例のノサカとの対談ねぇ、このところの体調だとなんとなく大丈夫な気がいているんだがね…」と、電話が入ったそうだ。この電話で、“やわらかい約束”が、みごと、固い約束になった。長いこと、通いつめて口説いた女から、ようやく色よい返事をもらった気になったと書いている辺りは、そうだねぇと私も頷いた。

長い間、宙に浮かせ、泳がせていた約束が、やわらかいから固くなった瞬間、この約束のスタイルは、セクシーだなと思ったものだとあるから、よほど、恋焦がれていたのだろうし、単に、事務的に交わした約束でなく、“やわらかい約束”は、不思議な余韻を持っているなと…。そしてつくづく、淳之介氏の、粋な計らいに、私は、見事に魅了されている自分に気づき、くすっと笑った。いけない、いけない、20代の頃に恋した作家に、また恋をしてしまった。“やわらかい約束”を誰かと、何度も重ねてしまいそうだ。

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