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2011年7月26日 (火)

十字架のような詩

人は、誰もが人生の中で、一番自分が輝いていた時は、いつだったか、覚えているでしょうか?若い方なら、いま、まさに、いま、この瞬間かもしれません。いえいえ、まだまだ人生が長く未来があるので、まだ先のことかもしれません。人生を半世紀くらい生きたら、どうでしょうか?振り返って、あの時だと言えるものがある人は倖せですね。何も、語るべきものがない人は、不幸せでしょうか?いえいえ、それは、一概には言えません。人の心は、千差万別。これが、〇で、これが×という、簡単なものではないのですから…そんなことを思いながら、ふと、私は、ある一人の詩人の詩が脳裏に過りました。



“わたしが一番きれいだったとき”…詩人・茨木のり子さんのこの詩は、乙女の心をちくっと刺すような哀しい響きと、なにくっそ!と怯まない凛とした強さを感じる詩で、大好きな詩のひとつです。この詩に出逢ったのは、やはり、話題作となった『倚りかからず』(筑摩書房、1999年)の詩集からでしょうか。

確か、作者はこの詩を、30代の頃に綴ったとか。その心模様は、のり子という一人の日本女性が体験した、それから、たった10年程前にあった、戦争という悲しい歴史上のドキュメントなのです。

詩は、心で読むものだと、私は思っています。歌詞でない、現代詩は特に、そう。一人静かに、自分に問いかけるように、自分の心と対話する瞬間が、詩の醍醐味ではないでしょうか。この茨木のり子さんの詩も然り。ここにYouTubeで、NHK加賀美アナが読んでいるのがあったので、ご紹介しておきます。http://www.youtube.com/watch?v=ZP9Ns23TTFg


いま、この世に生きている私たちは、今年は、昨年とどこか違う毎日を歩んではいないでしょうか?そうですよね、あの311以来、キッチリと、線引きされたように、結界ができたように、人生に対する考え方が、変わったはずです。それは、地震や津波の被害から、放射能という果てしない見えない敵との闘いにもなり、それが、国境を越え、世界中、いえ、地球規模で広がっている怖さも、余所の国の出来事でなく、我が国、日本の事なのですから痛ましい限りです。痛ましい過去といえば、やはり、戦争でしょうか。その頃を、こんな気持ちで過ごした娘さんが居たこと、ちょっとだけでも、心に刻んで置きたいと、つくづく思います。あの暑い、終戦の日も、もうすぐですし、この夏を、強く生きるためにも、この詩は、心に響きます。


★わたしが一番きれいだったとき★   

                   茨木のり子 作



わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがらと崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした

わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達が沢山死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった

わたしが一番きれいだったとき
誰もやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差だけを残し皆(みな)発っていった

わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った

わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた

わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった

わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった

だから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように ね



この詩は、軍国主義に染まった少女が、自分の失ったものは、何だったのか?と、八連の詩に綴りました。これは、戦争に青春の美しい日々を奪われた少女の心の叫びです が、戦争でなくても、私たちは、きっと、何かに支配され、何かに阻まれ、自分が本当にどう生きたいのかを貫くこともせずに、ただ生き延びている日々が日常じゃないでしょうか。それを、どうに かしたいと思わせてくれる詩でもあります。だから、私にとってのこの詩は、十字架のようでもあり、また、ピュアな涙の一粒でもあります。


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コメント


sunうだるような暑さが続きますね。
心の中でそっと応援してますよ。お元気で。

茨木のり子さんの詩・・心に響きます、、、

いつも、ここにも訪れてくださり、ありがとうございます。

八月はお盆もあり、帰省もあり、天国と向き合うことが
何故か多い気がしています。

はい、茨木のり子さんの詩は、やさしように見えて、
鋭い牙もあり、他の詩も凛として好きな詩人ですね。

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